鏡餅を夜に飾るのは良くない?時間帯よりも注意すべきポイント

年末も押し迫り、仕事納めや大掃除、買い出しにと追われていると、ふと気づけばあたりは真っ暗。
「しまった、まだ鏡餅を出していない!」と焦ってしまうこと、ありますよね。
実は私も昔は、「夜に飾り付けをするなんて、神様に対して失礼なんじゃないか…」と不安になりながら、こっそりと飾っていた時期がありました。
鏡餅を夜に飾るという行為は、本当に縁起が悪いのでしょうか?
あるいは、非常識なマナー違反にあたるのでしょうか?
昔からの言い伝えや「一夜飾り」がダメな本当の理由を正しく理解しておかないと、せっかくの新年を迎える準備が、不安の種になってしまうかもしれません。
また、現代の住宅事情、特にマンション住まいの方などは、飾る時間帯だけでなく「どこに飾るか」や「処分にお塩を使うべきか」といった点でも悩むことが多いはずです。
この記事では、神道や民俗学的な背景を踏まえつつ、現代のライフスタイルに合わせた「無理のない、でも誠意のある判断基準」を、私なりの視点でご紹介します。
- 夜に飾っても問題ない理由と、絶対に守るべき最低限のマナー
- 「一夜飾り」がなぜダメなのか、31日の夜が持つ具体的なリスク
- 忙しい現代人が知っておきたい12月30日の夜の扱いと境界線
- 夜間に飾り付けを行う場合に実践したい、正しいお清めの手順
鏡餅を夜に飾る是非と正しい時間帯
まずは、多くの人が抱いている「夜に飾るのはなんとなくダメそう」というイメージの正体と、実際の日取りについて整理していきましょう。
結論から言うと、現代においてはそこまで神経質にならなくても大丈夫なんですよ。
大切なのは「なぜそう言われているのか」を知ることです。
正月飾りを夜にするのがダメな理由
そもそも、なぜ昔から「正月飾りは朝に行うべき」と口を酸っぱくして言われてきたのでしょうか。
これには、日本の伝統的な「ハレ(非日常)」の日に対する考え方と、太陽信仰が深く関係しています。
昔の農耕社会において、一日の活動は太陽と共にありました。
太陽が昇る「朝」は、陽の気(ポジティブなエネルギー)が最も高まる神聖な時間帯だと考えられていたのです。
お正月の主役である「年神様(としがみさま)」をお迎えするための準備は、この明るく清らかなエネルギーに満ちた時間に行うのが、最高の誠意の表れだとされていました。
夜が避けられる理由(陰と陽)
逆に、夜は太陽が沈み「陰の気」が強まる時間帯です。
また、昔は照明も不十分だったため、「暗くなってからゴソゴソと準備をするのは、何かやましいことがあるのか、あるいは神様をないがしろにしている」という印象を与えやすかったのです。
しかし、これはあくまで「理想論」です。
現代の私たちは、日中は仕事で家にいなかったり、共働きで夜しか家族が揃わなかったりしますよね。
多くの神社の神主さんや専門家の方々も、「現代の生活様式であれば、夜に飾っても、そこに迎える心があれば問題ない」という柔軟な見解を示しています。
形式にとらわれすぎてイライラしながら飾るより、夜でも家族みんなで笑顔で準備をする方が、神様も喜んでくれるはずです。
一夜飾りの理由と31日の危険性
「夜に飾ること」自体は現代的な解釈で許容範囲ですが、絶対に避けるべきタブーが一つだけ存在します。
それが「一夜飾り(いちやかざり)」です。
これは12月31日の大晦日に飾り付けを行うことを指します。
「たった一日違うだけで、何がそんなに問題なの?」と思われるかもしれませんが、これには非常に深刻な理由が3つあります。
なぜ12月31日は絶対にダメなの?
- 葬儀の連想:
日本の葬儀において、通夜から葬儀にかけての準備は突貫で行われます。これを「一夜飾り」と呼ぶことから、大晦日の夜に慌ただしく準備することは、おめでたいお正月に葬儀の不吉さを持ち込むことになり、非常に縁起が悪いとされます。 - 誠意の欠如:
年神様は元旦の早朝、あるいは大晦日の日没後に来訪すると言われています。その直前まで準備ができていないというのは、大切なお客様を玄関先で待たせながら掃除機をかけているようなものです。これでは神様に対する「おもてなしの心」が疑われてしまいます。 - 旧暦の時間感覚:
旧暦では、一日の始まりは「日没」からとされていました。この考えに基づくと、大晦日の夜(日没後)は、すでに感覚的には「お正月」に入ってしまっていることになります。つまり、31日の夜に飾るのは「手遅れ」という解釈も成り立つのです。
このように、31日の飾り付けは「夜だから」という以前に、日付そのものがNGであり、最も避けるべき行為です。
「31日しか休みがない!」という場合でも、なんとか30日の夜までに済ませる工夫をしましょう。
30日の夜ならギリギリセーフ?
では、12月30日の夜はどうでしょうか。
「30日の夜遅く(例えば23時頃)だと、もう31日に近いからダメかな?」と不安になる方もいるかもしれません。
結論から言うと、30日の夜であれば、ギリギリではなく普通に「セーフ」です。
12月30日は「キリが良い日」とされており、31日の一夜飾りを避けるための最終防衛ラインとも言えます。
日付が31日に変わる前であれば、それは一夜飾りには該当しません。
仕事から帰宅して一息つき、30日の夕食後や夜のリラックスタイムに、家族みんなで「今年も一年お疲れ様」と言い合いながら飾り付けをする。
これは、現代のライフスタイルにおいては、むしろとても素敵な迎え方だと私は思います。
ただし、日付が変わって31日になってしまうとアウトですので、余裕を持って作業を始めてくださいね。
鏡餅はいつから飾る?28日がベスト
もしスケジュールに余裕があって、ベストな日を選べるのであれば、最もおすすめなのが12月28日です。
カレンダーを見て、この日が空いていれば迷わずこの日に飾りましょう。
28日が最良とされる理由:末広がり
漢字の「八」という文字は、下に向かって裾が広がっていく形をしていますよね。
これを「末広がり(すえひろがり)」と言い、日本では古くから「将来に向かって運が開け、繁栄していく」という意味で極めて縁起が良い数字とされています。
28日に飾れば、大晦日まで3日間の猶予があります。
「神様、いつでもお待ちしていますよ。準備万端です」という余裕と誠意が伝わる、最高のおもてなしになります。
ちなみに、本来は12月13日の「正月事始め」から飾っても良いのですが、最近はクリスマスツリーを片付けてから飾る家庭が多いため、28日が実質的なベストデーとなっています。
29日は苦餅?それとも福の日?
12月29日に関しては、地域や家庭、あるいは個人の考え方によって判断が真っ二つに分かれる、ちょっと面白い(そして悩ましい)日です。
一般的には、「9」という数字が「苦」に通じるとして嫌われる傾向にあります。
「苦餅(もち)=苦しみを持ち込む」「苦松(まつ)=苦しみが待っている」という語呂合わせから、この日の飾り付けや餅つきを避ける方は、特に年配の方を中心に多くいらっしゃいます。
一方で、最近ではこの語呂合わせをポジティブに捉え直す動きも強まっています。
| ネガティブな解釈(避ける派) | ポジティブな解釈(飾る派) |
|---|---|
| 「苦(9)」に通じる 「二重苦(29)」になるため縁起が悪い | 「福(2・9)」と読む 「福(ふく)」を呼ぶ日として縁起が良い |
食品メーカーなどでは、29日を「福の日」として、あえてお正月の準備を推奨しているケースもあります。
どちらを信じるかはあなた次第ですが、「二重苦は嫌だな」と少しでも気になるようであれば、無難に30日にずらすか、あるいは28日に済ませておくのが精神衛生上も安心かなと思います。
鏡餅を夜に飾る場合の作法と置き場所
仕事などでどうしても準備が夜になってしまう場合に、どのような手順で飾れば良いのか、そして床の間がない現代の住宅事情に合わせた置き場所について、具体的に解説していきます。
夜の飾り方は塩とお清めが重要
夜に飾る場合、どうしても気になるのが先ほど触れた「陰の気」です。
これを払拭し、場を清浄な状態にするために、少しだけ手間をかけてみましょう。
おすすめなのが「塩」と「照明」を使ったお清めです。
これをやるだけで、気持ちの切り替えが全然違いますよ。
夜に飾る場合の3ステップお清め術
- 照明を明るくする(太陽の代わり):
まずは部屋の電気をしっかりとつけ、太陽の代わりとなる明るさを確保します。間接照明だけの薄暗い雰囲気ではなく、パッと明るい状態にすることで「陽の気」を補います。 - 掃除は日中に済ませておく:
ここがポイントですが、可能であれば掃除だけは昼間のうちに終わらせておきます。夜の掃除は「福を掃き出す」とも言われるため、夜は軽く棚の埃を払う程度にするのがスマートです。 - 塩で清める(重要):
飾る棚や床の間を水拭きした後、ひとつまみの塩(清め塩)を撒くか、盛り塩を置いて場を浄化します。その後、塩を片付けてから鏡餅を置き、最後に二礼二拍手一礼をして完了です。
飾り終わった後に、「準備が夜分遅くになってしまいましたが、どうぞお越しください」と心の中で神様に念じることで、形式的なマイナスをカバーし、歓迎の意を伝えることができます。
マンションでの鏡餅の場所はどこ?
最近のマンションやアパートには、立派な床の間や神棚がないことの方が多いですよね。
「どこに置けばいいの?」と悩む方も多いですが、基本的には「家族が集まるリビング」でOKです。
本来、鏡餅は年神様の「依代(よりしろ=居場所)」です。
リビングは家の中心であり、家族の団欒がある最も明るく賑やかな場所。
年神様は家族の幸せや健康を見守ってくれる祖霊(ご先祖様)のような存在ですから、みんなの顔が見える場所にいていただくのが一番なんです。
置く場所のポイントは以下の通りです。
- 目線より高い位置:
神様を見下ろさないよう、チェストやサイドボードの上などに置きます。大人の目線より少し高い位置が理想的です。 - 清潔な場所:
テレビの横などでも構いませんが、静電気で埃がたまりやすい場所は避け、こまめに掃除ができる場所を選びましょう。 - 方角について:
できれば南向き(陽の光が入る)か東向き(太陽が昇る)が良いとされますが、部屋のレイアウト的に無理なら、方角よりも「清潔で明るい場所」を優先して大丈夫です。
トイレやキッチンに飾ってもいい?
鏡餅は一番大きなものをリビングや床の間に飾りますが、実は一つだけでなく、家の中の様々な場所に複数飾っても良いことをご存知ですか?
これを「供え餅」といいます。
特に水回りは、生活に直結する重要な神様が宿る場所とされています。
キッチン(台所)
ここには「荒神様(こうじんさま)」や「竈神(かまどがみ)」と呼ばれる、火と食を司る神様がいらっしゃいます。
火事にならないよう、また一年間美味しいご飯が食べられるように、小さな鏡餅を飾るのはとても良いことです。
トイレ
トイレには古くから「便所神(べんじょがみ)」という、健康や安産を司る神様がいると言われています。
ただし、不浄な場所でもあるため、飾る場合はタンクの上などに直接置かず、白い紙(半紙)や小さな台を敷いて、清潔さを保つことが大切です。
最近では100円ショップやスーパーなどで、かなり小さなミニサイズの鏡餅が売られていますよね。
あれをキッチンやトイレ、玄関などの「サブ飾り」として使うのが、手軽で人気のあるスタイルです。
鏡餅の処分方法と鏡開きの日程
お正月が終わった後の鏡餅、皆さんはどうされていますか?
「プラスチック容器に入ったままだから」と、そのままゴミ箱へポイ…なんてことは絶対にしないでくださいね。
それは神様の居場所をゴミとして捨てることと同じになってしまいます。
鏡餅には、お正月の間に年神様の魂(力)が宿っています。
これを食べることで、その力を体に取り込み、一年の無病息災を願うのが「鏡開き」という行事です。
松の内(飾っておく期間)が明けた後に、家族みんなでいただきましょう。
- 関東・東北・九州など:1月11日に鏡開き(松の内は7日まで)
- 関西(京阪神)など:1月15日 または 20日に鏡開き(松の内は15日まで)
地域によって日程が異なるので、引っ越したばかりの方などはご近所さんに聞いてみるのも良いですね。
もし、本物のお餅を飾っていてカビが生えてしまってどうしても食べられない場合や、飾りに使った裏白や譲り葉などの小物を処分する場合は、感謝の気持ちを込めて「お清め」をしてから捨てます。
白い紙に包み、塩を振ってから、他の生ゴミなどとは別の袋に入れて出すのがマナーです。
地域の神社などで行われる「どんど焼き(左義長)」に持って行ってお焚き上げしてもらうのが最も丁寧な方法ですが、家庭で処分する場合もこの「塩でお清め」の手順を踏めば問題ありません。
まとめ:鏡餅を夜に飾る際の心構え
鏡餅を夜に飾ることについて、伝統的な背景から現代的な対処法まで解説してきました。
最後に、忙しいあなたが安心して新年を迎えられるよう、大切なポイントをおさらいしておきましょう。
- 夜に飾ってもOKだが、31日の一夜飾りだけは絶対に避ける。
- 理想は末広がりの28日だが、30日の夜でも問題ない。
- 夜に飾る場合は、照明を明るくし、塩で場を清めると安心。
- 場所はリビングの高い位置で、家族みんなが見えるところがベスト。
形式やルールを守ることも大切ですが、何よりも大切なのは「年神様をお迎えしたい」「新しい年を良い年にしたい」というあなたの気持ちです。
仕事や家事で忙しい中、時間を割いて飾り付けをしようとしている時点で、その誠意はきっと神様に伝わっているはずです。
どうぞ、あまり「夜だからダメかも」と気負わずに、あなたのライフスタイルに合わせたタイミングで鏡餅を飾ってくださいね。
しっかり準備をして、良いお年をお迎えください!
※本記事の情報は一般的な通説や風習に基づいています。
地域の風習や家庭の教えによって異なる場合がありますので、最終的な判断はご自身の地域の慣習に合わせてください。