蚊が好む血液型の根拠となった論文とは?実験は日本でも行われていた
「蚊に一番刺されやすいのはO型」といった話を、一度くらいは耳にしたことがあるかと思います。
この情報が本当かはともかく、血液型によって刺されやすさに違いがあるという話は、なぜかずっと昔から言われ続けています。
しかし、蚊と血液型の話がどういった根拠で生まれた話なのかは、意外と知らない方が多いのではないでしょうか。
蚊と血液型に関する話のベースとなったのはどんな研究なのか、ぜひこの機会に知っておきましょう。
蚊と血液型の関係性の根拠
蚊が好む血液型については、伝聞によって広がっていることもあり、人によって多少認識に違いがあるかもしれません。
しかし、蚊に刺されやすい血液型は?と聞かれた場合、ほとんどの方はO型と答えると思います。
逆に、刺されにくい血液型は?と聞かれたら、A型と答える方が多いでしょう。
こうした情報が広く知られるようになったのは、昭和に発表されたある論文による影響だと思われます。
根拠となった研究論文
蚊と血液型の関係性を最初に示したのは、1972年(昭和47年)に発表されたWood et al.氏(当時はイギリスの研究者)の研究論文です。
この論文の趣旨は、吸血した後のガンビアハマダラカの腸内にある血液を取り出し、その血液型の内訳を調査するというもの。
この調査の結果として提示されたのが、「O型>B型>AB型>A型」の順に多いというデータでした。
そして、Wood氏の論文発表を受けて、日本でもある研究者が同じような実験を行っています。
富山医科薬科大学の白井良和博士は、日本にいるもっとも身近な蚊であるヒトスジシマカを使って、被験者64名の前腕に蚊をとまらせて吸血させるという実験を行いました。
そして、この実験でも結果は「O>B>AB>A」と変わらず、日本の蚊でも同様の傾向が見て取れることをデータで示しました。
※ちなみに、白井博士の論文では「O型とA型にのみ有意差があり、他の血液型との差はわずか」という見解が示されています。
血液型の話がいつ日本で広まったかは定かではありませんが、Wood氏の論文は科学ジャーナル「Nature」に掲載されたことがあるので、それが何らかの形で民間に広まったのかもしれません。
また、白井博士の論文についても、日本人に身近なヒトスジシマカでの実験結果ということもあって、テレビやラジオなどの媒体で取り上げられた可能性があります。
いずれにしても、この説が一般に広く知れ渡っているのは、おそらくこの論文のどちらか(あるいは両方)が元になっていると考えていいでしょう。
血液型由来の分泌物の実験と反論
1972年以降には、最初の論文で示された血液型による差異の原因を調べようと、さらなる研究が進められてきました。
1976年には、Wood氏(この時はアメリカの研究者)が、今度はネッタイシマカを使った実験により、血液型に由来する分泌物質による差によって刺されやすさに違いがあることを発表しました。
この論文の中でWood氏は、O分泌型の人はO非分泌型よりも刺されやすく、A分泌型はA非分泌型より刺されにくい、という説を提唱しています。
しかし、この論文には異論もあり、1976年には研究者Thornton氏がWood氏と同じくガンビアハマダラカを使った実験を行ったものの、「血液型による差はまったく確認できず、血液型由来の分泌型も刺されやすさには影響しなかった」と述べています。
また、白井良和博士は、この分泌型による実験をヒトスジシマカで追試験しましたが、「特に因果関係は認められなかった」との見解を示しています。
さらにこれ以降も、蚊と血液型の因果関係を解明しようといくつもの実験が行われていますが、これといって大きな発見には至っていないようです。
刺されやすい血液型は迷信?
血液型による違いは本当?嘘?
血液型によって刺されやすさに違いがあるという説は、日本人の間ではすでに有力な話として定着してしまっています。
しかし、この説は科学的に証明されているわけではなく、迷信に過ぎないという意見も少なくありません。
最近では蚊の生態についての研究も進んできており、血液型以外でも蚊が反応を示す要素が分かってきています。
・熱(体温)
・二酸化炭素
・体臭(匂い)
※蚊は上記の3つを「毛状感覚子」という器官で感知する。
【蚊が好みやすい人・要素】
・体温が高い人
・汗っかきの人
・肺活量が多い人
・太っている人
(表面積が多い人)
・子供
(新陳代謝が活発な人)
・黒い色
※さらに詳しく知りたい方は下記記事を参照してください↓
蚊に刺されやすい人の特徴・原因は?血液型や体質との関係および対策
上記のとおり、蚊が感知するメカニズムなどは少しづつ分析が進んでおり、昔に比べると蚊の生態がだいぶ明らかになってきています。
それに対して、血液型は他の要素に比べると解明されていない部分が多く、そもそも蚊が血液型を感知できているのかどうかさえよく分かっていません。
また、血液型は実験での結果のバラつきが多く、得られた有意差についても「他の要素の影響で差がついただけでは?」という疑問を拭いきれません。
いわば、仮説だけが先行して一人歩きしてしまっており、肝心の中身が追いついていないという状態といえます。
これから何かしらの新事実が出てくる可能性はありますが、現段階では科学的な根拠は薄い説であることを知っておいたほうがいいでしょう。
噂の一人歩きによる弊害
一部のテレビ番組では、過去に「O型の血が好まれるのは、O型の分泌物が花の蜜の糖分に似ているから」という内容を放送したことがあるそうです。
しかし、この情報については、白井博士が代表を務める害虫防除技術研究所が下記のような見解を述べています。
吸血行動と、単にエネルギー源として、水や花の蜜を摂取する行動とは異なり、この2つは全く別物です。また、吸血選択は、吸血前に行うものであり、実際に吸血している血液によって、吸血選択するわけではありません。糖鎖は不揮発性で、超低濃度でしか、皮膚上にはなく、糖鎖が飛んで、飛行中の蚊が感じることもあり得ないことと考えます。
テレビ番組はあらかじめ、コンセプト、ストーリー、結論まで決めてから制作していることが多いのを実感しました。取材を受けても、研究者の意図が十分に反映されずに制作されることが多いことを知っていただきたく思います。制作会社が強引に結果に結びつけることも多いと考えます。
出典:ABO式血液型、分泌・非分泌型と蚊の嗜好性について
血液型の話は確かに不明瞭な部分が多い説ですが、それゆえに上記のような根拠が不十分である情報が尾ひれのようにくっついてしまうことがあります。
こうした情報が間違ったまま定着してしまうと、それがまた血液型説の信憑性を薄める原因ともなってしまいます。
仮説だけが先行しすぎるとこういった弊害も出てくるので、肯定にしろ否定にしろ、この説を裏付けるようなデータが早く見つかって欲しいものです。
まとめ
「血液型によって刺されやすさが異なる」という説は、世界的にも1972年の研究論文が初出です。
すでに「O型=刺されやすい」というイメージが固定化されていますが、悲しいことにその理由については未だによく分かっていません。
この説が本当なのか迷信なのかは分かりませんが、決定打となる新発見が早く見つかることを期待したいですね。
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